読み聞かせのコツ（短く）

・声は低めで落ち着いて読んでください。

・一文ごとに少しだけ呼吸を整えてください。

・登場人物の気持ちを想像しながら読むと伝わりやすいです。

・静かなBGMを小さめに流すと雰囲気が出ます。

第1章　黒猫との出会い

夜風が、すこし冷たくなってきた。

（少し間をあけて）

街灯の下を歩くたび、白い息がふわりと広がる。

帰り道のアスファルトには落ち葉が散っていて、

踏むたびに、かすかな音が鳴った。

（やわらかく）

その夜、彼はいつもより少し遠回りをして帰っていた。

理由は特になかった。

ただ、まっすぐ帰る気分じゃなかった。

一人暮らしの部屋に帰っても、誰も待っていない。

テレビをつけても、部屋の静けさはすぐに戻ってくる。

（少し間をあけて）

角を曲がった先、古いパン屋の前に小さな黒い影があった。

それは、ひとつの瞳だけが月の光を受けて光る、黒猫だった。

（やさしく）

「……こんな時間に、どこへ行くんだ？」

思わずつぶやくと、猫はしっぽをゆらしてこちらを見た。

まるで「あなたこそ、どこへ？」と問い返すように。

彼が一歩近づくと、猫は逃げるでもなく、ただその場に座り込んだ。

パン屋のショーウィンドウには、もう何も並んでいない。

シャッターの隙間から漏れる明かりもない。

けれど、黒猫の隣にだけ、まるで温かい空気が漂っているように見えた。

（少し声を落として）

「寒くないのか？」

またつぶやく。

猫は小さく「にゃあ」と鳴いた。

その声が、思っていたよりやわらかくて、胸の奥が少し温かくなる。

彼はしゃがみこんで、そっと手を差し出した。

（少し間をあけて）

黒猫は警戒するように一瞬目を細め、

それから彼の指先に鼻を近づけた。

ひんやりとした空気の中で、その小さな呼吸のぬくもりがはっきりと伝わる。

「……もしかして、おまえ、誰かに捨てられたのか？」

猫は何も答えない。

けれど、月明かりの中で毛並みが少し乱れているのが見えた。

どこかの家から出てきたというより、

しばらくひとりで夜を過ごしてきたような、そんな雰囲気だった。

（やさしく）

「……うち、狭いけどさ。少しくらいなら、居場所あるかもな。」

思わずそんなことを口にして、彼は自分でも驚いた。

猫を拾うなんて考えたこともなかった。

でもそのときだけは、なぜか自然に言葉が出てしまったのだ。

（少し間をあけて）

猫はまるでその意味を理解したかのように立ち上がり、

トコトコと彼の足もとに寄ってきた。

（やわらかく）

「……ついてくるのか？」

問いかけると、黒猫はまた「にゃあ」と鳴いた。

月の光が二人を包み、夜の道が少しだけやわらかく見えた。

その晩、彼は黒猫を抱えて帰った。

ふわりと軽くて、想像していたよりも温かい。

部屋の電気をつけると、猫は少し目を細め、

それからゆっくりと部屋の中を見回した。

（小さく笑って）

「……まあ、汚いけど、我慢してくれよ。」

そう言って彼が笑うと、猫は小さく鳴いた。

それはまるで、「いいよ」と言っているみたいだった。

（読み上げ目安：この第1章はゆっくり読んで約7〜9分です）

第2章予告：窓辺の朝

翌朝、黒猫は部屋の窓辺で丸くなっていた。 その姿を見て、彼は久しぶりに誰かの「気配」がある朝を迎える。 しかし、その猫には、ある小さな秘密があった——。

（第2章は穏やかな日常と、黒猫が見せる不思議な仕草を中心に展開します。続編は順次掲載予定。）