前回の第3章では、雨の夜に見せた黒猫・月の不思議な行動と、
その奥に隠された“別れ”の記憶が描かれました。
青年は、月が抱える静かな寂しさに気づきながらも、
ただそっと寄り添うことしかできませんでした。
——そして今章では、雨があがった翌朝。
月の瞳に映る新しい光と、青年の中に芽生えた“約束”の意味が明らかになります。
静かな時間の終わりに訪れる、やさしい余韻の物語。
静かな夜に、誰かの声で物語を聞く——
そんな時間が、きっと一番やさしい眠りへと導いてくれるはずです。
この記事は、”恋人やお子さんに読み聞かせできる“寝かしつけ用台本”として書かれた短編物語です。
声に出して読むと約30分ほど。
明かりを落とし、ゆっくりと、穏やかな声で読んであげてください。
【読み聞かせ台本】月の下の小さな約束 第4章|朝の光の中で
雨が止み、夜が明ける。
静かな光が差し込む部屋の中で、
青年と黒猫・月は、
それぞれの新しい朝を迎えます。
読み聞かせ相手:恋人・パートナー・お子さん等。
読み手:あなた(台本を読んであげましょう)。
第4章 朝の光の中で
夜が明けた。
カーテンの隙間から、
やわらかな光が差し込む。
雨は止み、
街の屋根に残る水滴が、
朝日を受けて小さくきらめいていた。
テーブルの上には、
昨夜のままのマグカップ。
そして、
窓際には黒猫の月が静かに座っていた。
(やさしく呼びかけるように)
「おはよう、月。」
青年が声をかけると、
月はゆっくりとこちらを振り向いた。
その瞳には、
夜とは違う色が宿っていた。
深い闇の中にあった光が、
今はやさしく滲んでいる。
青年が近づくと、
月は静かに尻尾を揺らし、
まるで何かを伝えるように、
小さく鳴いた。
(小さく笑って)
「ふふ、今日も元気そうだな。」
その声に、
月は一度だけ瞬きをした。
ふと、窓の外に目をやると、
雲の切れ間から白い月がまだ残っていた。
青い空の中に、
薄く、
でも確かにそこにある。
(少し間をおいて)
「……月、もう行くのか?」
小さく問いかけた声に、
月は振り返らない。
ただ、
窓枠に飛び乗り、
朝の風を一度吸い込むと——
静かに外へと歩き出した。
その背中は、
どこか晴れやかで、
昨日までの影をすべて手放したようだった。
(やわらかく微笑みながら)
「ありがとう、月。……また、いつか。」
月の姿が角を曲がって見えなくなる。
その瞬間、
風に乗って、
小さな鈴の音がかすかに響いた。
青年は思わず外に出て、
空を見上げる。
そこには、
消えかけた月と、
新しい太陽が並んでいた。
その光景を見て、
青年はふと笑った。
(静かに)
「きっと、おまえも、どこかで笑ってるんだろうな。」
朝の空気が頬をなで、
彼の胸の奥で、
何かがゆっくりとほどけていった。
静かな朝の街に、
ひとすじの光が伸びていく。
それはまるで、
“約束の続きを照らす道”のようだった。
(読み上げ目安:この第4章はゆっくり読んで約7〜8分です)
エピローグ:月の約束
あの日の猫の名を、彼は今も覚えている。 そして夜空を見るたび、どこかで同じ月を見ている誰かを思う。 それだけで、少しだけ優しくなれる気がした。
(物語『月の下の小さな約束』完)
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